音楽についてのよもやま話
音楽雑記帳


楽器の個性ついて


以前「VIVA! リコーダー」に「音程の微調整」について書かせていただいたさい、「しかし音程が少し甘いのもリコーダーの個性」だという意味をのべ、「それについては別に詳しく論じる」と書きました。今回、そのお約束を果たしたいと思います。

楽器の個性

 ピアノは打鍵の強さによって強弱が自在に出ますが、チェンバロはあまり強弱が出ません。このことは「チェンバロの欠点」なのか? 私は一概にそうは思いません。チェンバロは「強弱が安定している」ので、奏者は即興で、どの音を弾くか、どんな音型を弾くかといことだけに集中することができ、その結果、ピアノの文化においてはやがて失われてしまった、即興精神が躍動する音楽が演奏できた、という面がきっとあると思うからです。

 そのピアノにしても、いったん鳴らした音には手を加えることがほとんどできず、基本的には自然減衰に任せるしかありません。(ペダルを使ったいろいろな特殊な「ワザ」があることは、私も知らないわけではありませんが、通常、無闇やたらとやれることではありません。)ならばそれがピアノの「欠点」かというと、これも一概にそうではなくて、そのかわりピアノは、他の多くの楽器ではとても不可能なたくさんの音を一度に鳴らせるし、リズム感が適確に出せるし、また、細かな音符も自由自在に繊細に鳴らすことができます。これがピアノという楽器の個性であるわけです。
※  ピアノ音楽が、このようなピアノの個性を生かす書法で書かれた音楽であるのは言うまでもありません。バッハの「G線上のアリア」の独奏楽器としてピアノを使いたいと思う音楽家はいないでしょう。最初の5秒から場合によっては10秒以上にもわたる長い音符が、ピアノでは、「ぽん」とたたいた後自然減衰するだけの、間抜け極まる音になってしまいます。

リコーダーの個性

 ではリコーダーの場合はどんな個性があるでしょうか。

 いくつか挙げてみます。

(1) 発音が容易で指使いも合理的だから、奏者は発音に苦労することなく装飾や変奏などの即興に精神を集中できる。

(2) そのかわり音の強弱の幅が小さい

 これは、上記のチェンバロの場合にも通ずる側面だと思います。リコーダーは、なるほど強弱の幅は比較的小さいですから、劇的表現においてはフルート(フラウト・トラヴェルソ)に及ばないでしょう。しかし、アクロバティックなフレーズを軽快に演奏することにかけて、リコーダーはおそらくほとんどの管楽器をしのぐ身軽さがあると思います。ここにリコーダーの個性があります。

 そして、上の(2)と密接な関係がありますが、

(3) 息の強さで音程が変わりやすい(強く吹くと音程が上がり、弱いときは下がる)

 という問題があります。

 これについて少し詳しく考えてみます。



リコーダーらしい歌いかた

 けっして居直って言うのではなく、これは「リコーダーという楽器の個性」で、大なり小なり、この特性を生かした歌いかたというのがリコーダー演奏の味なのだ、という面があると私は思っています。

 そう、昔の「ボブ・ディラン」というフォークシンガーをご存知でしょうか。日本のよしだたくろう(吉田拓郎)さんなども影響を受けていらっしゃったと思うのですが、彼の(あるいは彼らの)歌い方においては、語尾でいちいち音程が下がっていることがよくありました。もう少し正確に言えば、語尾に近いところでいったん力をこめて音程が上がり、その後、声の力を抜くにつれて、音程が下がっていました。あれが彼らの歌唱の何とも言えない個性的な味になっていたことは間違いありません。

 ジャズなどのトランペット演奏などでも、リップグリッサンドというのでしょうか、音のしまいのところで音程を「ふにっ」と下げてしまう吹き方がありますでしょう?

 リコーダー独奏においても、こういう「味」を積極的に出していい場合があります。(多くのリコーダーの大家の皆さんの演奏が、そう主張していると私は思います)。

 これがリコーダーの味であり、個性なのだ、というのは、そういう意味で言っているのです。


ただしアンサンブルでは禁物

 しかし、これをアンサンブルの場合、ことに「合奏」の場合にやったのでは、やはり具合が悪いでしょう。アンサンブルにおいては、音程を互いにしっかり合わせないと美しい響きにならないからです。

 やはり、ボブ・ディランや吉田拓郎さんがソロシンガーであったように、あるいはジャズのトランペッターがソロを取るときにリップグリッサンドをやるように、リコーダー奏者も、ソロ演奏(通奏低音伴奏で演奏する場合を含めて)のときにだけ、この「リコーダーの個性」を十分に発揮することが許されるのだと思います。

 そういうわけで、「アンサンブルもいいけど、やっぱりソロもいいなぁ」と私などは思ってしまうのですが、いかがでしょうか。


リコーダーJPディレクター 石田誠司   

  

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